「takeo paper show 2018 precision」で、参加クリエイターによって制作された「新しい紙=precision paper」は、それぞれに新たな道筋をつくりながら、発展の途上にあります。「takeo paper show」の記録を一冊にまとめた書籍に「precision paper」をセットにしたスペシャル・エディションを販売します。
安東陽子[紙布](紙の詳細・オーダーフォーム)
葛西薫[色紙](紙の詳細・オーダーフォーム)
田中義久[和紙](紙の詳細・オーダーフォーム)
DRILL DESIGN[段ボール](紙の詳細・オーダーフォーム)
永原康史[情報の紙](紙の詳細・オーダーフォーム)
原研哉[半透明の紙](紙の詳細・オーダーフォーム)
原田祐馬[厚紙](紙の詳細・オーダーフォーム)
藤城成貴[モールド](紙の詳細・オーダーフォーム)
「precision paper」付きBOX入りスペシャル・エディション
各6,800円(税別)
国内送料無料
「precision paper」1点付き(色はお選びいただけません)
BOX:254 x 189 x 32mm / 蓋式
書籍『takeo paper show 2018 precision』詳細はこちらからどうぞ
安東陽子[紙布]
紙布の原料となる糸は、紙を細くスリットし,撚ったものである。綿などと比較すると軽量で、紙の持つ多孔性構造により吸汗性に富んでいることが特徴である。今回作品の一部に使用した糸「キュアテックスヤーン」は他の紙糸と異なり、乾いた状態で撚糸(ねんし)を行っている。また、撚る方向も何度か変えることで繊維が柔らかくなり、凹凸ができるため表面積も増える。こうした時間をかけた撚糸方法により、より高い吸水・吸着力や,加工のしやすさを実現している。日頃から布と向き合うテキスタイルデザイナーの目線から編み、織り、縫うことで、紙と布の境界から導かれる精度を探る。
葛西薫[色紙]
製紙における染色は、紙を抄く前段階である調整工程でパルプ繊維を染色することが多い。色を方向付ける「濃度」と「色相」は染料の量や、混ぜ合わせる色のバランスによって決定する。そこには各製紙メーカーのノウハウと膨大な研究成果の蓄積があり、繊細な色表現を可能にしている。今回は深い紫の表現に挑んだが、通常、濃度の高さを求めると、彩度は落ち、発色が鈍くなる。そこで、ダイオーペーパープロダクツ株式会社独自の「高彩度濃色技術」を用いることで、深い紫を「濃度」と「色相」で18段階に細分化し、闇のような深さでありながらも紫の色味を感じる色紙の表現を追及した。
田中義久[和紙]
古くから和紙の原料には、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)の靭皮(じんぴ)(植物の外皮の下にある柔らかな内皮)繊維が中心に使われてきている。今回の制作は、主に楮や雁皮に、国内をはじめイタリアなど世界各地の土や,壁材に用いられる藁やスサ、竹を混ぜ合わせることで、その風土によって生まれるさまざまな色合いがつくられた。また、土の粒子が質感や触感として特有の風合いを増し、数多のブックデザインを手がける田中ならではの、現代の風格を持つ装飾するための美しい紙となった。
DRILL DESIGN[段ボール]
板紙を包装資材などに使用できるよう加工した紙製品として親しまれている段ボール。一般には、中芯となる波状(フルート)に、加工した紙を表裏の紙(ライナー)で挟んで接着することで、強度を持たせる。中芯のフルートは、波形の高さにより細かく分類され、必要な用途や強度により選択される。基本的には原材料の90%以上が使用済み段ボールであり、漂白などをおこなわず原料本来の色を用いるため、薄い茶色や黄土色のものが多いが、かねてより地券紙を用い制作された「グレーダン」の開発など、段ボールを未知の素材として見つめ直してきたDRILL DESIGNにより、今回はライナーにファインペーパーを用い、彩りのあるフルートと、自由度を増した成型で、新たなリアリティを持つ段ボールが生まれた。
永原康史[情報の紙]
一般的な用紙に風合いを持たせる方法として、エンボスという手段がある。紙を抄く段階または抄いた後に、模様のついた金属ロールや毛布(フェルト)を使用して用紙に凹凸・風合いを施す。今回は、上質紙を基材とし、マイクロパウダー層(バンプ層)、インクジェット層、マイクロフィルムといった構造をなすデジタルシートに、カシオ計算機が独自に開発した2.5Dプリントテクノロジー「Mofrel」によりカーボンで印刷。電磁波を照射することで、中の熱可塑性樹脂が反応・膨張し、非接触でエンボスのような凹凸を表現することが可能となった。押し型を持たないため、一枚ずつ異なったテクスチャーが再現でき、今後の印刷表現に新たな発展を促す可能性を含んでいる。デジタルデータという「情報」を素材とする永原の今作は、あえて凹凸の調整はせず、データの可視化そのままを出力することで、データが本来持つ感情だけではない風合いが描き出された。
原研哉[半透明の紙]
一般的なトレーシングペーパーは、パルプを水中に離解し、十分に擦りつぶし、解きほぐすこと(重叩解)で繊維間の隙間を少なくして透過度を上げていく。今回、原が採用した「ドリープF」は、紙を硫酸溶液で処理することで、パルプ繊維をゼラチン状に変性(アミロイド化)させ、繊維間を結合させている。アミロイド化により、紙の強度が増し、耐油性や耐水性などの機能を得た半透明な素材となる。そこへレーザービームを照射し微細なパターンデータなどを忠実に再現するレーザーカッティング加工で、非常に緻密な大小の丸が配列された抜き加工を施すことで、新たな透過性と素材感が生まれている。張りのある1枚の紙が、精緻な加工技術を経てまったく新たな姿をみせ立ち上がっていく様相が示された。
原田祐馬[厚紙]
障害のある人たちの生活・作業支援を行う南三陸「のぞみ福祉作業所」は、東日本大震災後まもなく紙漉き機を寄贈されて以降、全国から集められた牛乳パックや古紙などを再利用し、原料(ビニールと紙など)の選別から、すべて手作業による紙づくりを行っている。かねてより障害のある人たちが継続的に仕事のできる環境づくりに意識的である原田は、本来自然物を加工してつくられた紙が、人の手を介しもう一度自然物に還る「循環の精度」をテーマに、竹尾の用紙の中でも時代とともに需要が減り、廃品となった紙を持ち込み、新たな厚紙づくりを試みた。繊維が離解され、再び水に還り、シート状に再構成されることで、同じ紙とは思えない表情を見せ、新たな役目を担うであろう厚紙へと生まれ変わった。
藤城成貴[モールド]
パルパーと呼ばれるタンクに、水と原料(主に段ボールや新聞、オフィスから出る古紙など)を入れて溶解し、金型を沈め、原料を抄きあげたのち、熱乾燥を与える。その後、製品によって凹凸型でプレス・成形し、仕上げの抜き加工を経て完成となる。型の形状により自在な形を生み出せるため、紙の素材感を活かした立体物が可能となる。また、その工程において、テーパー(傾斜)を直角に近づけることが困難とされている。今回は、従来のモールド制作では珍しくひとつの作品に対し2種の原料を利用したものも制作。水に溶かす段階で1種の原料を完全に溶けきらない状態として意図的に残し、異なる2種の色の関係により、斑点模様が再現されることを試みた。プロダクトデザイナーならではの色への探求は、石材の表情に近づけるというマテリアルへの追及により、モールドに新鮮な価値を付けた。